ESSの収益構造とは|収益源・費用・変動要因を整理

系統用蓄電池(ESS)の収益は、電気を蓄えておくだけで生まれるものではありません。
電力価格の異なる時間帯を利用した充放電、電力の需要と供給を調整できる能力の提供、将来必要となる供給力の確保など、蓄電池が電力システムへ提供する価値が収入につながります。

一方で、充電する電気の購入費、設備の維持管理費、運用事業者への費用、各種手数料、蓄電池の劣化や部品交換なども事業収支に影響します。
そのため、系統用蓄電池の事業性を確認する際は、想定される売上だけでなく、収益源、費用、運用主体、設備性能、契約条件、市場制度を一体として確認する必要があります。

このページでは、ESSの主な収益源、運用に関わる事業者、発生する費用、収支の変動要因、事前に確認したい項目を整理します。

ESSの収益構造とは

系統用蓄電池では、電力市場や送配電事業者などから得られる収入が、そのまま設備所有者や事業参加者の収益になるわけではありません。
市場取引などから得られる総収入から、充電電力の購入費、運用費、保守費、各種手数料などを差し引き、契約条件に基づいて事業収支が整理されます。

市場等から得る総収入、事業運営に必要な費用、費用控除後の事業収支という基本的な流れ

1.蓄電池が電力システムへ価値を提供する

電力の売買、需給調整、供給力の確保など、蓄電池の充放電能力や待機能力を活用します。

2.市場や契約に基づく収入が発生する

市場での約定、指令への対応、契約上の義務の履行などに応じて、収入が発生する場合があります。

3.事業運営に必要な費用を差し引く

充電費用、運用費、保守費、通信費、土地費用、保険料、各種手数料などを整理します。

4.契約条件に基づいて事業収支を整理する

費用控除後の収支や分配方法は、プロジェクトごとの契約内容によって異なります。
「市場からの収入」「費用控除後の事業収支」「契約に基づく分配」は、それぞれ異なる段階の数字です。
収支を確認する際は、提示された数字がどの段階を示しているのか、どの費用が含まれているのかを確認することが重要です。

系統用蓄電池の主な収益源

系統用蓄電池では、設備や契約、市場への参加要件などに応じて、複数の収益源が関係する場合があります。
代表的なものとして、卸電力市場、需給調整市場、容量市場などが挙げられます。

系統用蓄電池で検討される主な収益源のイメージ

卸電力市場での電力取引

電力価格が比較的低い時間帯に充電し、価格が比較的高い時間帯に放電することで、価格差を活用する運用です。
一般に「裁定取引」または「アービトラージ」と呼ばれます。
ただし、充電した電気をすべて同じ量だけ放電できるわけではありません。充放電時には一定の電力損失が発生するため、単純な市場価格の差だけでなく、充放電効率や取引費用なども含めて考える必要があります。

収支に影響する主な条件

  • 充電時と放電時の電力価格差
  • 蓄電池の充放電効率
  • 充電・放電できる時間帯
  • 蓄電池の容量と出力
  • 充放電の回数
  • 市場取引や需給管理に関する費用
  • 蓄電池の劣化への影響

需給調整市場での調整力提供

電力は、使用する量と発電する量のバランスを継続的に調整する必要があります。
需給調整市場では、電力の需要と供給に差が生じた場合に備え、一定の出力を調整できる設備を事前に確保します。
系統用蓄電池は、応動時間、継続時間、通信、計測、制御性能などの要件を満たす場合、調整力を提供する設備として活用される可能性があります。

調整できる能力を確保することへの対価

必要な場合に出力を調整できるよう、一定の能力を待機状態で確保することに対する対価です。

指令に応じて実際に調整した電力量の精算

送配電事業者などからの指令に応じて実際に充放電した場合には、調整した電力量に関する精算が発生する場合があります。

収支に影響する主な条件

  • 参加する商品区分
  • 応札価格と応札可能量
  • 約定量と約定率
  • 指令の発生状況
  • 蓄電池の応動性能
  • SOC・充電残量の管理
  • 事前審査や性能確認
  • 指令に対する達成状況
  • 取引手数料や運用費用
  • 市場制度や商品要件の変更

※需給調整市場の商品区分、参加要件、取引ルールなどは変更される場合があります。実際の運用では、最新の制度と契約内容をご確認ください。

容量市場での供給力提供

容量市場は、将来の電力供給に必要となる供給力を、実際に電気を使用する年度より前に確保するための仕組みです。
一定の参加要件を満たしてオークションで落札し、容量確保契約に基づく義務を履行する場合には、供給力を提供することへの対価が収益源となる可能性があります。
ただし、系統用蓄電池を設置するだけで、容量市場から自動的に収入が得られるわけではありません。

確認が必要な項目

  • 設備が参加要件を満たしているか
  • 対象となる容量と放電可能時間
  • オークションへの参加と落札の有無
  • 容量確保契約の内容
  • 実需給年度における義務
  • 義務不履行時の扱い
  • 設備停止や性能低下の影響

その他の制度・契約に基づく収入

プロジェクトによっては、長期的な供給力確保に関する制度、発電設備との組み合わせ、運用事業者との契約などが収支構造に関係する場合があります。
また、設備所有者が市場収入を直接受け取るのではなく、アグリゲーターや運用事業者との契約を通じて、費用控除後の収支や契約上の分配を受け取る形も考えられます。
利用できる制度や契約形態は、設備、案件、参加要件、市場環境などによって異なります。

複数の収益源を組み合わせる運用

系統用蓄電池では、卸電力市場、需給調整市場、容量市場など、複数の価値を組み合わせる運用が検討されます。
一つの収益源だけに依存せず、設備の能力を複数の用途へ活用する考え方は、一般に「マルチユース」などと呼ばれます。
ただし、同じ時間帯の同じ蓄電池容量を、複数の市場へ自由に重複して使用できるわけではありません。

蓄電池の利用可能な能力

  • 卸電力市場での充放電に使用する能力
  • 需給調整市場の指令に備えて確保する能力
  • 容量市場などの契約上必要となる能力
  • 充電残量の調整や設備保護のために確保する余力

市場ごとの要件、契約、充電残量、蓄電池の性能、指令への対応余力などを確認しながら、利用可能な容量を管理する必要があります。
ある市場への参加や約定によって、別の市場で使用できる容量や時間帯が制限される場合もあります。

※複数市場を利用できることが、複数の収益が必ず同時に発生することを意味するものではありません。

ESSの運用には誰が関わるのか

系統用蓄電池では、設備を所有する事業者が、すべての市場取引、設備制御、保守管理を直接行うとは限りません。
設備所有者、運用事業者、アグリゲーター、取引会員、O&M事業者、施工事業者などが、契約に基づいて役割を分担する場合があります。

系統用蓄電池の所有、運用、市場取引、設備保守に関わる主な事業者

設備所有者・事業主体

  • 蓄電池設備を所有する
  • 事業に関する契約を締結する
  • 設備費用や事業上のリスクを負担する
  • 契約内容に基づいて事業収支を受け取る

運用事業者・アグリゲーター

  • 蓄電池の充放電計画を作成する
  • 市場価格や需給状況を確認する
  • SOC・充電残量を管理する
  • 市場への応札や指令対応を行う
  • 運用実績や収支情報を管理する

市場の取引会員・契約主体

  • 市場への参加資格を取得する
  • 応札、約定、精算などを行う
  • 市場ルールや取引規程に対応する
  • 必要に応じて運用事業者と連携する

O&M・設備保守事業者

  • 設備の状態を監視する
  • 定期点検を実施する
  • 故障や異常へ対応する
  • 消防・安全設備を確認する
  • 部品交換やメーカー対応を行う

一般送配電事業者

  • 電力系統との接続に関する対応
  • 系統の運用と計量
  • 需給調整に関する指令
  • 市場や契約に関連する精算

EPC・設計施工事業者

  • 候補地や設備構成の確認
  • 設備設計と調達
  • 造成、基礎、電気設備工事
  • 系統接続に関する工事対応
  • 試運転と性能確認

施工事業者と運用事業者が同じ事業者とは限りません。
個別のプロジェクトでは、誰が設備を所有し、誰が市場取引を行い、誰が運用・保守を担うのかを確認する必要があります。

ESS事業で発生する主な費用

ESSの収益構造を確認する際は、運用開始後の費用だけでなく、設備の取得・建設時に発生する費用も整理する必要があります。

設備の取得・建設時に発生する主な費用

  • 蓄電池コンテナ
  • PCS・パワーコンディショナ
  • 変圧器
  • 受変電設備・キュービクル
  • EMS・制御システム
  • 通信・計測設備
  • 消防・安全設備
  • 土地取得費または土地賃借に関する初期費用
  • 造成、基礎、排水、フェンス、搬入路
  • 設計、申請、施工管理
  • 系統接続に関する工事や負担
  • 試運転、性能確認
  • 資金調達や契約に関する費用

運用開始後に発生する主な費用

  • 充電する電気の調達費用
  • 市場取引や需給管理に関する手数料
  • アグリゲーター・運用事業者への費用
  • O&M・定期点検費用
  • 通信・監視システム費用
  • 土地賃借料
  • 保険料
  • 固定資産税などの公租公課
  • 警備、除草、清掃費用
  • 故障修理、部品交換
  • 蓄電池の劣化や更新への備え
  • 借入金利、事務管理費

市場などから得られる売上が、そのまま事業収支として残るわけではありません。
収入からどの費用が差し引かれるのか、費用の負担者は誰か、将来発生する修繕・更新費用をどのように扱うのかを確認することが重要です。

ESSの収支を左右する主な変動要因

電力市場の価格変動

卸電力市場の価格や、需給調整市場における約定単価は一定ではありません。
発電量、電力需要、燃料価格、天候、季節などの影響を受けて変動します。

約定量と稼働機会

市場へ応札しても、必ず約定するとは限りません。
約定量、指令回数、実際に充放電した電力量などによって収入は変化します。

設備の容量・出力・応動性能

蓄電池の容量、出力、応動速度、放電可能時間、充放電効率などによって、参加できる市場や運用可能な方法が異なります。

SOC・充電残量の管理

蓄電池は、常に満充電または空の状態で運用するわけではありません。
市場への対応、設備保護、次の充放電に備えた余力などを考慮して、充電残量を管理します。

蓄電池の劣化

蓄電池は、充放電回数、使用する出力、温度、充電状態などによって性能が変化します。
劣化によって利用可能な容量が減少すると、将来の運用や収支へ影響する場合があります。

運用方法と市場への能力配分

どの時間帯に、どの市場へ、どの程度の容量を配分するかによって、事業収支が変化します。
価格差を利用した充放電と、調整力として待機する運用では、同じ蓄電池でも役割が異なります。

系統接続と立地条件

接続可能な容量、出力制約、系統側の工事や停止、通信環境などが運用へ影響する場合があります。

制度や市場ルールの変更

需給調整市場、容量市場などの参加要件、商品設計、取引ルール、精算方法は変更される場合があります。
事業計画では、現在の制度だけでなく、将来の変更可能性も考慮する必要があります。

故障・点検・運用停止

定期点検、故障、部品交換、通信障害、系統側の事情などによって、設備を運転できない期間が発生する場合があります。
停止期間中は、市場への参加や充放電が制限される可能性があります。

運用・保守費用の変動

市場取引費用、電気の調達費、保守費、部品価格、保険料、金利などの変化も、費用控除後の事業収支に影響します。

ESSの収支を見るときに確認したい項目

ESSの事業収支やシミュレーションを確認する際は、最終的な数字だけでなく、どのような前提条件で算定されているのかを確認する必要があります。

  • 収益予測は、どの市場や制度を前提としているか
  • 卸電力市場の価格差をどのように想定しているか
  • 需給調整市場の約定率や指令回数をどのように想定しているか
  • 容量市場などの収入を含んでいるか
  • 収入が発生するための条件や契約上の義務は何か
  • 充電する電気の購入費を含んでいるか
  • 充放電効率による損失を考慮しているか
  • 蓄電池の劣化や利用可能容量の減少を考慮しているか
  • 運用事業者やアグリゲーターへの費用を含んでいるか
  • O&M、保険、土地賃借料などを含んでいるか
  • 固定資産税などの公租公課を含んでいるか
  • 故障や運転停止期間を考慮しているか
  • 部品交換や設備更新の費用をどのように扱うか
  • 設備所有者、運用主体、取引主体は誰か
  • 市場収入と費用の精算方法はどうなっているか
  • 収支情報は、どのような方法と頻度で報告されるか
  • 市場制度が変更された場合の扱いはどうなるか
  • 契約期間中の中途解約や地位の変更はどう扱われるか
  • 契約終了時の設備、土地、撤去費用はどう扱われるか

提示された数字が、売上、費用控除前の収入、費用控除後の事業収支、契約に基づく分配のどれを示しているかも確認してください。

ESSの収益構造についてよくあるご質問

Q. ESSの収益源は一つだけですか?

A. 一つとは限りません。
卸電力市場、需給調整市場、容量市場などが関係する場合があります。
ただし、利用できる市場や収益源の組み合わせは、設備性能、契約、参加要件、運用方法などによって異なります。

Q. 市場から得た収入が、そのまま事業収支になりますか?

A. そのまま事業収支になるわけではありません。
充電費用、運用費、保守費、各種手数料、土地費用、保険料などが差し引かれます。
費用控除後の収支や分配方法は、契約条件によって異なります。

Q. 設備所有者が蓄電池を直接運用するのですか?

A. 設備所有者が直接運用するとは限りません。
運用事業者、アグリゲーター、市場の取引会員、O&M事業者などが役割を分担する場合があります。

Q. 複数の市場から同時に収入を得られますか?

A. 複数の市場を組み合わせる運用は考えられます。
ただし、同じ時間帯の同じ充放電能力を、複数の市場へ自由に重複して使用できるわけではありません。
市場ごとの要件、契約、充電残量、設備性能などを踏まえた運用が必要です。

Q. ESSの収益は安定していますか?

A. 市場価格、約定状況、指令、設備稼働率、運用方法、制度、費用などによって変動します。
特定の収益や事業結果が保証されるものではありません。

Q. 収益シミュレーションは確認できますか?

A. 個別プロジェクトの条件や説明資料の範囲で確認する必要があります。
シミュレーションは一定の前提条件に基づく試算であり、実際の市場価格、設備性能、運用状況などによって結果が変化します。
試算値だけでなく、算定条件、費用項目、変動要因をご確認ください。

Q. 容量市場へ参加すれば、必ず収入が得られますか?

A. 必ず収入が得られるわけではありません。
参加要件を満たし、オークションで落札し、契約上の義務を履行することなどが必要です。

Q. 市場制度が変更された場合はどうなりますか?

A. 市場制度や取引ルールが変更されると、参加条件、運用方法、収入、費用などに影響する可能性があります。
個別契約における制度変更時の扱いを確認する必要があります。

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