農作物と電気の相性発見室 #01
雷が多い年は豊作? 「稲妻」と農作物の意外な関係

「雷が多い年は、豊作になる」
そんな話を聞いたことはありませんか?
雷と農作物
空で光る雷と、地面で育つ植物では、ずいぶん遠い関係に思えます。
ところが調べてみると、両者の間には「窒素」という意外な接点がありました。
新シリーズ「農作物と電気の相性発見室」
第1回は、空からやってくる巨大な電気――雷から始めてみます。
なぜ雷を「稲妻」と呼ぶのだろう?
雷を表す言葉のひとつに「稲妻」があります。
「稲妻」は、雷光が稲の実りをもたらすものと考えられてきたことから、「稲」と、その連れ合いを意味する「つま」が結びついた言葉とされています。[1]
昔の人々は、雷と稲の実りを結びつけて考えていたようです。
そんな雷や稲妻へのまなざしは、日本の文化の中にも見つけることができます。神社の注連縄などに付けられる紙垂(しで)の折れた形は、一説では雷・稲妻を かたどったものともいわれ、雷と豊穣を結びつける考え方が古くから伝えられてきました。[2]

もちろん、昔の人が現在の窒素循環を科学的に理解していたわけではありません。
それでも、
雷が来る
雨が降る
田畑が潤う
やがて作物が実る
そんな自然の変化を長く観察する中で、雷と豊作を結びつけて考えるようになったのかもしれません。
では 現代の科学から見ても、雷と農作物の間に何か関係はあるのでしょうか。
🧪 ちょっと相性実験|静電気で水を曲げてみよう
対象の目安:中学生以上
※小学生が試す場合は、保護者と一緒に行ってください。
雷⚡のような大きな放電を家庭で試すことはできません。
でも、身近な静電気なら、電気の力を安全に観察できます。
今回は、帯電した物を水に近づけると、水の流れが どう変化するか現象を見てみましょう。
まず予想してみよう
布で こすって静電気をためた「くし」や「下敷き」を、細く流した水に近づけると、どうなるでしょうか。
- 何も起こらない?
- 水が少し近づく?
- 水がはねる?
先に予想してから試すと、観察がもっと面白くなります。
用意するもの
- プラスチックのくし
またはプラスチックの下敷き - 乾いた布
またはティッシュ - 水道の水

やってみよう
- 蛇口から、水を細くまっすぐ流します。
- くしや下敷きを乾いた布で よくこすり帯電させます。
- 水に触れないようにして、帯電した くしや下敷きを水の近くへ ゆっくり近づけます。
- 水の流れが どう変わるかを観察します。
観察のポイント
- 水の流れが、くしや下敷きのほうへ少し曲がることがあります。
- 空気が乾燥している日の方が、静電気が起きやすく、変化も見えやすくなります。
- 水が太すぎると変化が分かりにくいので、できるだけ細い水流にすると観察しやすくなります。
なぜこうなるの?
水の分子は、電気の かたより(電荷の偏り)に反応しやすい性質を持っています。
こすって静電気をためた くしや下敷きを近づけると、その周りの電気の影響で、水の分子の向きや電気の分布に かたよりが生まれます。
その結果、水が帯電した物のほうへ引かれて、流れが少し曲がって見えます。
つまりこれは、目に見えない電気が、物に力を及ぼしていることを観察する実験です。
今回の記事との関係
この実験は、雷による窒素固定を再現するものではありません。
ただし、
- 電気は目に見えなくても働いていること
- 電気の作用は、身近な現象として観察できること
を体感できます。
今回の記事で扱った「雷」も、自然界で起きる大きな電気の現象です。
まずは身近な静電気から、電気の存在を感じてみるコーナーとして楽しんでみてください。
安全のために
コンセントや家電は使わず、水の近くでは安全に注意して行ってください。
出典・参考
- 気象庁「雷とは?」
- 静電気に関する教材・解説
※本実験手順は、上記の資料・解説を参考に 静電気による基本的な現象を家庭で観察しやすい形にAIを用いて構成したものです。
雷は、空気中の窒素を変えている
ここで登場するのが「窒素」です。
窒素は植物の生育に欠かせない重要な養分です。
ところが、大気中に大量に存在する窒素ガス(N₂)を植物は そのまま直接利用することができません。[3]
植物が利用できる形に変える必要があります。
その仕組みのひとつが窒素固定です。

微生物などによる窒素固定は、よく知られています。
しかし、実は 雷も大気中の窒素を変化させることができます。
雷放電による非常に大きなエネルギーによって、大気中の窒素から窒素酸化物が生じ、その後の反応を通じて硝酸塩や亜硝酸塩などの固定窒素が生まれます。
雷による窒素固定そのものは、現在の研究でも確認されている現象です。[4]
つまり雷は、ただ空を光らせているだけではありません。
空気中に大量にあるけれど、植物がそのまま利用できない窒素を、別の形に変える働きもしている。
そう考えると、雷の見え方が少し変わってきます。
では、雷は「空から降ってくる肥料」なの?
ここで、「それなら雷が多いほど、作物はどんどん育つのでは?」と思いたくなります。
でも、そこまで単純ではありません。
雷による窒素固定は確かに存在しますが、それだけで農地の窒素環境や農作物の収量が決まるわけではありません。
実際の農作物の生育や収量には、
- 降水量
- 日照
- 気温
- 土壌
- 肥料
- 品種
- 病害虫
- 栽培方法
など、多くの条件が関係します。ですから、
「雷が多い年=必ず豊作」
とは言えません。
雷そのものが農作物の収量を決めている、と考えるのも適切ではありません。
ただ、「雷と農作物には、窒素循環という科学的な接点がある」ということは分かります。
昔から語られてきた「雷と豊作」という組み合わせ。
現代の科学から のぞいてみると、そこには少し面白い接点が見つかるのです。
農業と電気は、思ったより遠い関係ではない?
ここからが、この「相性発見室」で考えてみたいところです。
今回登場した電気は、雷という自然現象でした。
でも農業の周りを見てみると、電気との接点はほかにもあります。
植物そのものは、電気的な信号を使っているのでしょうか
植物に外から電気的な刺激を与えると、何か反応するのでしょうか
昆虫と電気には関係があるのでしょうか
農地の上で太陽光発電を行えば、そこでつくった電気を農業にも利用できるのでしょうか
そして、ソーラーシェアリングの農地が、
「農作物を育てながら電気をつくる場所」から、
「農作物と電気の新しい使い方を考える場所」
へ広がっていく可能性はあるのでしょうか
ひとつ調べると、次の疑問が出てきます。
それが、このシリーズの楽しみ方です。
昔の「稲妻」から、これからの農業へ
「雷が多い年は豊作になる」
この言葉を そのまま科学的な事実として受け取ることはできません。
けれど、雷によって大気中の窒素から固定窒素がつくられる現象は、科学的に確認されています。
そして「稲妻」という言葉や稲妻を思わせる紙垂の形にも、雷と農作物を結びつけてきた日本人の感覚を見ることができます。
昔から農業と結びつけられてきた雷
そこを現代の科学から のぞいてみると、
農作物と電気には、意外な接点がある。
そんな最初の発見がありました。
では、もっと直接的に電気と植物を組み合わせると、どうなるのでしょう?
次回は、
「植物に電気を流すとどうなる? 電気刺激と成長の研究を調べてみた」
をテーマで、さらに農作物と電気の間へ入ってみます。
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出典・参考資料
[1]農林水産省「農業担い手メールマガジン」―「稲妻」の語源、雷と豊穣に関する解説
[2]レファレンス協同データベース(国立国会図書館)「紙垂(しで)の意味と由来を知りたい。また、なぜZ形なのか。」―紙垂の形に関する「雷・稲妻」説
[3]農研機構「マメ科植物と根粒菌の共生に関わる重要な遺伝子を発見」―植物と大気中の窒素、共生窒素固定に関する解説
[4]Barth, P. et al., “Isotopic constraints on lightning as a source of fixed nitrogen in Earth’s early biosphere,” Nature Geoscience, 2023 ― 雷放電による亜硝酸塩・硝酸塩などの固定窒素生成に関する研究
本シリーズについて
「農作物と電気の相性発見室」は、農作物と電気・エネルギーの関係について、公開されている研究・事例・技術情報をもとに読み解き、そこから広がる可能性を考えるコラムです。
実用化されている技術、研究段階の知見、仮説・発想は区別して紹介します。個別の栽培効果や収量向上を保証するものではありません。
AI利用に関する制作注記
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