投資目線で見る再エネ #04

系統用蓄電池は、どこから収益が生まれるのか?

投資目線で見るESSの収益構造

大きな蓄電池に電気を貯める。
必要なときに、その電気を放電する。
系統用蓄電池(ESS)の基本的な動きは比較的シンプルです。

では、その設備からどうして収益が生まれるのでしょうか。
「安いときに電気を買って、高いときに売る」
これはESSの収益を説明する分かりやすい例ですが、実際の事業を見るには、それだけでは足りません。

系統用蓄電池には、卸電力市場、需給調整市場、容量市場など、複数の市場や制度が関係する場合があります。
さらに、その市場から得た収入が、そのまま事業利益になるわけでも、投資する人への分配になるわけでもありません。

今回は、ESSの収益源そのものから一歩進んで、
「その収益を、投資する側ではどう読めばよいのか」を考えてみます。

まず結論――「売上」「事業収支」「分配」は同じ数字ではない

ESSの収益を見るとき、まず覚えておきたいのがこの違いです。

市場や契約から得る総収入

⇩

事業を動かすための費用を差し引く

⇩

費用控除後の事業収支

⇩

個別の契約条件に基づいて分配等を整理する

という段階があります。つまり、
市場から1,000万円の収入があったから、1,000万円がそのまま利益になる
というわけではありません。さらに、
事業に利益が残ったから、その金額がそのまま投資家等へ分配される
とも限りません。
この3段階を分けて考えることが、ESS事業の数字を見る第一歩です。

ESSは、何を提供して収益を得るのか

太陽光発電では、発電した電気そのものが価値の中心になります。
一方、系統用蓄電池は基本的に電気を発電する設備ではありません。
ESSが持っているのは、

  • 電気を充電できる
  • 電気を放電できる
  • 必要なタイミングまで電気を保持できる
  • 短時間で出力を変化させられる
  • 必要な供給力として待機できる

といった能力です。
この能力を電力システムの中で利用することで、収入につながる可能性があります。
代表的な収益源として、

  1. 卸電力市場
  2. 需給調整市場
  3. 容量市場

があります。
ただし、設備を設置しただけで、この3つから自動的に収入が得られるわけではありません。
設備性能、市場の参加要件、契約、応札、約定、実際の運用などが関係します。

1.卸電力市場――「時間による電気の価格差」を利用する

最もイメージしやすいのが、卸電力市場での電力取引です。
日本卸電力取引所(JEPX)では、翌日に受け渡す電気を取引する一日前市場(スポット市場)や、受渡しまでの需給変化に対応する当日市場(時間前市場)などが運営されています。[1]
ESSでは例えば、

電力価格が比較的低い時間に充電

⇩

価格が比較的高い時間に放電

という運用が考えられます。
一般に、価格差を利用するこのような取引は「アービトラージ」「裁定取引」などと呼ばれます。
ただし、100円で買って150円で売れば、50円がそのまま利益。
というほど単純ではありません。
実際には、

  • 充放電時の電力損失
  • 取引手数料
  • 運用費用
  • 蓄電池の劣化
  • 充放電できる容量
  • 市場価格の変動

などが関係します。

投資目線では、ここを見る

単に、「安く買って高く売れる」ではなく、
どの程度の価格差を前提としていて、その価格差からどの費用を差し引いているのか
を見る必要があります。

2.需給調整市場――「すぐに動ける能力」に価値がある

電力は、需要と供給を常にバランスさせる必要があります。
発電量が急に変わったり、需要が予想からずれたりした場合には、その差を調整する力が必要です。
そのための調整力を取引するのが、需給調整市場です。

ESSは、比較的短時間で充電と放電を切り替えられるため、こうした調整力として活用できる可能性があります。
2026年現在も、需給調整市場では蓄電池設備向けの取扱いガイドが整備され、取引規程や参加ルールの更新が続いています。[2]
ただし、ここでも、
蓄電池だから参加できる
という単純な仕組みではありません。
設備性能、計測、通信、制御、事前審査など、必要な条件があります。

そして市場へ応札しても、必ず約定するとは限りません。

投資目線では、ここを見る

確認したいのは、

  • どの商品へ参加する予定なのか
  • 設備は必要な性能を満たしているか
  • どの程度の応札を想定しているか
  • 約定や指令をどのように見込んでいるか
  • 誰が運用を担当するのか

といった部分です。つまり、需給調整市場では、
設備性能だけでなく運用能力も収益に関係する
ということです。

3.容量市場――「将来使える供給力」に価値がある

少し分かりにくいのが容量市場です。
ここでは、今すぐ電気を売ることそのものではなく、
将来の電力供給に必要な供給力をあらかじめ確保する
という考え方が中心になります。

一定の要件を満たす電源等がオークションへ参加し、落札後は容量確保契約に基づく義務を履行します。
2026年度も、2030年度実需給を対象とした容量市場メインオークションの手続きが進められています。[3]

系統用蓄電池も、対象となる設備や制度上の条件を満たす場合には、容量市場が収益源のひとつになる可能性があります。
ただし、
ESSを置けば容量市場から毎年自動的にお金が入る
という仕組みではありません。

オークションへの参加、落札、契約、実需給年度での義務履行などが必要です。

投資目線では、ここを見る

容量市場による収入が事業計画に含まれている場合には、

  • どの年度を対象としているのか
  • 落札済みなのか、将来の想定なのか
  • どの容量を前提としているのか
  • どのような義務があるのか
  • 義務を果たせなかった場合はどうなるのか

まで確認したいところです。

少し寄り道――収益源は、多いほど安心?

卸電力市場

需給調整市場

容量市場

3つ並ぶと、
「収益源が3つあるなら、かなり安定しているのでは?」
と思うかもしれません。

ここには注意が必要です。

ひとつの蓄電池には、

  • 出力
  • 容量
  • 充電残量
  • 充放電可能時間
  • 設備性能

という物理的な制約があります。
ある時間に卸電力市場向けとして放電していれば、同じ設備能力を無条件で別の用途にも使えるとは限りません。
市場や契約によっても、同時利用の条件は異なります。
つまり、
収益源の候補が3つあること
と、
3つから常に同時に収入が発生すること
は別の話です。むしろ重要なのは、
限られた蓄電池の能力を、どの市場へ、いつ、どれだけ振り分けるか。
ここにESS運用の難しさと特徴があります。

アグリゲーターや運用事業者の役割が大きい理由

この話をすると、ESS事業で「アグリゲーター」という言葉がよく出てくる理由も見えてきます。

市場価格

需給状況

蓄電残量

翌日の運用計画

市場への応札

設備の状態

こうした情報を見ながら、蓄電池をどのように動かすか判断する必要があります。
設備そのものが同じでも、
どの市場へ参加し、どのタイミングで充放電するか
によって、事業結果は変わる可能性があります。
そのためESSでは、
どんな設備を持っているか
だけでなく、
誰が、どう運用するのか
も重要な確認項目になります。

アグリゲーターについては、シリーズ#08で詳しく取り上げます。

収入から差し引かれる「費用」も見る

ここからが、投資目線では特に重要です。
市場から収入が得られても、事業を動かすには費用がかかります。
代表的には、

  • 充電する電気の購入費
  • 市場取引に関する手数料
  • 運用事業者・アグリゲーターへの費用
  • O&M・設備保守費用
  • 通信・監視費用
  • 土地賃借料
  • 保険料
  • 税金等
  • 故障修理
  • 部品交換
  • 蓄電池の劣化や将来更新への備え

などがあります。
そして、建設段階では、

  • 蓄電池
  • PCS
  • 変圧器
  • 受変電設備
  • EMS
  • 土地
  • 造成
  • 系統接続
  • 設計・施工

などにも費用が発生します。
だから、
市場売上が大きい = 事業収支も大きい
とは限りません。

投資目線では「数字がどの段階なのか」を見る

ESS事業の資料を見るとき、数字が出てきたら一度立ち止まってみます。

その数字は、

市場等から得る総収入?

それとも、

費用控除後の事業収支?

それとも、

契約に基づく投資家等への分配?

でしょうか。
この3つは別の数字です。さらに、

  • どの市場を前提としているのか
  • 市場価格をどのように想定しているのか
  • 約定率はどう設定しているのか
  • 稼働率はどう考えているのか
  • どの費用を含めているのか
  • 設備劣化をどう扱っているのか

によってシミュレーションは変わります。
収益予測を見るなら、
数字そのものより、まず数字をつくった前提を見る。
これがESS投資を見るときの重要なポイントです。

「実績」と「想定」も分けて見る

もうひとつ確認したいのが、
その数字は実績なのか、将来想定なのか
という違いです。

まだ運転開始前の事業であれば、当然ながら将来の市場収入は実績ではありません。
一定の市場価格、稼働条件、設備性能などを前提として試算した数字になります。
運転開始後でも、市場価格や約定状況は毎年同じとは限りません。
需給調整市場の取引規程や価格に関するルールも更新されています。[2]
したがって、
過去の実績が、そのまま将来の収益を保証するわけでもありません。
予定値、想定値、実績値は分けて見る必要があります。

投資目線では、ここを見る

ESSの収益構造を確認するときは、次の順番が分かりやすいでしょう。

1.何が収益源なのか

卸電力市場、需給調整市場、容量市場、その他の契約。
どこから収入を得る計画なのか。

2.その収益は確定しているのか

既に契約・落札しているものなのか。
市場で将来得られると想定しているものなのか。

3.誰が運用するのか

市場への応札や充放電を誰が担当するのか。

4.どんな費用が差し引かれるのか

充電費、運用費、保守費などを確認します。

5.数字はどの段階なのか

売上なのか。
事業収支なのか。
分配なのか。

6.何を前提とした数字なのか

市場価格、稼働率、約定率、設備性能などを確認します。

ここまで見て初めて、「このESS事業では、なぜこの収益が想定されているのか」が見えてきます。

”今夜”のまとめ

系統用蓄電池の収益は、単に電気を貯めて売るだけで生まれるものではありません。
代表的には、

卸電力市場
+ 需給調整市場
+ 容量市場

など、蓄電池が電力システムへ提供する複数の価値が収益源になる場合があります。
でも、投資目線でもっと大切なのは、その先です。

市場等から得る総収入

⇩

事業費用を差し引いた事業収支

⇩

契約に基づく分配等

は、それぞれ別の数字です。だから、
「いくら収入があるのか」の前に、「その数字は何を示しているのか」を見る。
これが今回のポイントです。

次回は、収益の反対側へ視点を移します。
「系統用蓄電池投資には、どんなリスクがあるのか?」
市場、設備、運用、制度、契約という5つの視点から整理していきます。

関連ページ

ESSの収益構造

系統用蓄電池の収益源、費用、運用主体、変動要因について、事業構造から詳しく整理しています。

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投資目線で見る再エネ #02

系統用蓄電池投資とは? まず知っておきたい仕組みと事業の流れ

ESS投資の基本的な事業構造は こちら >

投資目線で見る再エネ #03

太陽光投資と系統用蓄電池投資は何が違う?

発電と蓄電の違いから比較しています。こちら >

ESS投資・事業参加

系統用蓄電池の実際の投資・事業参加プロジェクトはこちら。

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出典・参考資料

[1] 一般社団法人 日本卸電力取引所「取引概要」

[2] 一般社団法人 電力需給調整力取引所「需給調整市場に係る取引規程等の公表」

[3] 電力広域的運営推進機関「容量市場 2026年度メインオークション(対象実需給年度:2030年度)」

[4] 資源エネルギー庁「系統用蓄電池の現状」

※本記事は、系統用蓄電池事業および関連する投資の一般的な収益構造について理解を深めることを目的としたものであり、特定の投資商品・案件への投資を推奨するものではありません。市場価格、約定状況、設備性能、運用方法、制度、費用等は変動します。実際の収益、費用負担、分配、契約条件等は個別案件の資料・契約をご確認ください。


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