エネルギー構成の視点 #14

ESSは「入れるか」ではなく、「何をさせるか」から考える

ESSを導入したい。その前に決めたいこと

再エネ構成を考えていると、「ESSも入れた方がいいのでは?」という話が出てくることがあります。

太陽光発電との組み合わせ
電力需要のピーク対策
停電への備え
電気を使う時間の調整

ESSには、さまざまな使い方があります。
実際、経済産業省が整理している業務・産業用蓄電システムでも、ピークカット、太陽光発電の自家消費拡大、非常用バックアップなど複数の用途が挙げられています。大規模なものでは、需給調整市場などで活用される事例もあります。[1]

だからこそ、ESSを検討するときに最初に考えたいのは、
「ESSを入れるかどうか」ではありません。
その前に、
「ESSに、何をさせたいのか」
を決める必要があります。

同じESSでも、求める役割によって構成は変わる

ESSは、電気をためて、あとで使う設備です。
基本的な仕組みは同じでも、何を目的とするかによって必要な性能や運用方法は変わります。
たとえば、ある工場を考えてみます。

屋根上太陽光があり、昼間には発電しています。
一方で、この工場には次のような課題があります。

太陽光が多く発電する時間に使い切れない電気がある

朝の設備起動時には、大きな電力需要が発生する

停電しても、一部の重要設備は動かしたい

将来は、電力をより柔軟に制御したい

これらはすべてESSと関係する可能性があります

しかし、同じESSを置けば、すべて同じように解決できるわけではありません。
役割ごとに見てみましょう。

太陽光の余剰電力を あとで使う

分かりやすい役割の一つが、太陽光発電との組み合わせです。
昼間に太陽光が多く発電しているものの、その時間の需要が小さければ、発電した電気の一部が余ることがあります。
そこで、

昼間
→ 太陽光の余剰分をESSへ充電

夕方や夜
→ ESSから放電

という時間移動を行います。
これによって、太陽光で発電した電気を別の時間帯に使える可能性が広がります。
業務・産業用蓄電システムでも、太陽光発電の自家消費を増やすことは主要な活用方法の一つとして整理されています。[1]

ここで重要なのは、
「どれだけためられるか」だけではなく、「いつ余り、いつ使うのか」です。

#12で見た需要の時間軸が、ここでESSの使い方につながります。

電力需要のピークを抑える

もう一つの代表的な用途が、ピーク対策です。
工場などでは、複数の設備が同時に動いたとき、一時的に大きな電力需要が発生することがあります。
その時間だけESSから放電すれば、系統から受ける電力のピークを抑えられる可能性があります。
この用途では、
「一日にどれだけ電気をためられるか」だけでなく、

「必要な瞬間に、どれだけの出力を出せるか」

も重要です。つまり、
容量が大きければよい という話ではありません。

ピークがどの程度続くのか
どのくらいの出力を補いたいのか
そのピークが何回発生するのか

こうした需要データを見ながら、ESSの役割を考える必要があります。
業務・産業用蓄電システムでは、ピークカットも主要なユースケースとして整理されています。[2]

なお、ピーク対策による電気料金への影響は、契約や料金体系などによって異なります。

停電時の電源として使う

ESSには、BCPや非常時のバックアップ電源としての役割もあります。
ただし、
ESSがある=停電時に建物全体がそのまま動くとは限りません。

非常時に使うことを目的とするなら、

どの設備を動かすのか
何時間動かしたいのか
照明だけなのか
通信設備やサーバーも必要なのか
生産設備まで動かすのか

といった条件を整理する必要があります。

さらに実際のシステムでは、停電を検知したときの切替、自立運転の構成、PCSなど周辺設備、重要負荷の分離なども関係します。

経済産業省の定置用蓄電システムの整理でも、レジリエンス・非常用電源は蓄電システムの用途として位置づけられています。[2]
BCPを目的にする場合は、

「何kWhのESSを置くか」より先に、「何を何時間守るか」

を考える方が分かりやすくなります。

電気を使う時間をずらす

ESSの基本的な特徴は、
発電する設備ではなく、電気を使う時間を移動できる設備であることです。
たとえば、

電力を確保しやすい時間に充電して、必要な時間帯に放電する
太陽光が発電する昼から、需要が続く夕方へ移動する
一時的に需要が大きくなる時間だけESSを使う

この「時間をずらす」という考え方を持つと、ESSの役割が整理しやすくなります。
一方で、充電と放電には損失があり、ESS自体にも容量や出力の限界があります。
そのため、
電気をためれば何でも解決できる設備ではありません。
需要と発電の時間差を、どの範囲まで調整したいのかを見る必要があります。

「kW」と「kWh」の両方を見る

ESSを検討するとき、特に混同しやすいのが、

出力と容量

です。簡単に整理すると、

kW
→ その瞬間に、どれくらいの大きさで充放電できるか

kWh
→ どれくらいの量の電気をためておけるか

という違いがあります。
たとえば、短時間に大きなピークを抑えたい場合は、出力が重要になります。
一方、夜間まで長時間にわたって電気を使いたい場合は、必要な容量も大きくなります。
BCPでも同じです。

大きな設備を短時間動かしたいのか
小さな重要負荷を長時間維持したいのか

それによって必要な構成は変わります。
つまり、

ESSを「容量が大きい、小さい」だけで比較しない

ことが重要です。

一つのESSに、複数の役割を持たせることもある

ESSは、一つの用途だけに使うとは限りません。

たとえば平常時には、

太陽光の余剰電力を充電し、

夕方には放電し、

需要が急に大きくなったときにはピーク対策に使う。

さらに非常時には、重要負荷への電源として一定量を残しておく。

このように、一つのESSを複数の用途に活用する考え方があります。

経済産業省でも、定置用蓄電システムについて複数用途を組み合わせる「マルチユース」が検討されています。[2]
ただし、ここには一つ問題があります。
役割同士が競合することがあるからです。

たとえば、昼間の余剰太陽光をたくさん充電したいなら、昼になる前にはESSに空き容量が必要です。
一方、突然の停電に備えるなら、ある程度の電気を常に残しておきたいかもしれません。
つまり、
「できるだけ空けておきたい」
という目的と、
「できるだけ残しておきたい」
という目的が同時に存在することがあります。

そのため、複数の用途を持たせる場合ほど、
どの役割を優先するか
という運用ルールが重要になります。

電力システム側で活用するESSもある

ESSには、企業の工場や施設内で使うものだけでなく、電力系統へ直接接続して活用する系統用蓄電池もあります。
系統用蓄電池は、再エネの導入拡大に伴う電力需給の調整など、電力システム側での役割が期待されており、需給調整市場などでの活用も進められています。[3]
同じ「ESS」「蓄電池」という言葉を使っていても、
企業施設で、

  • 太陽光の自家消費
  • ピーク対策
  • BCP

などを目的に設置するESSと、
電力系統へ直接接続し、市場や系統運用の中で活用するESSでは、

設置目的も、運用方法も、事業スキームも異なります。

ここを分けて考えることも重要です。

市場やVPPで使うなら、さらに条件が増える

需要家側のESSでも、条件によってはアグリゲーターなどを通じて、電力システム側の調整に活用する考え方があります。
実際、大規模な業務・産業用蓄電システムでは、需給調整市場で活用される事例も確認されています。[1]
ただし、この場合は、
ESSがあるだけでは足りません。

制御設備、通信、充電残量の管理、応動性能、契約、市場参加要件なども関係します。
そのため、
「将来、市場でも使えそうだから」だけでESSを決めるのではなく、どの用途をどこまで想定するかを先に整理する
ことが重要です。
制度や市場要件は変化する可能性があるため、実際の導入時には最新条件の確認も必要です。

ESSを考えるときの順番

ここまでの内容を整理すると、ESS検討のスタート地点は設備仕様ではありません。
まず、何を解決したいのかを考えます。
そのうえで、

  • 太陽光の余剰を使いたいのか
  • ピークを抑えたいのか
  • 夜間まで電気を移したいのか
  • 停電時の電源を確保したいのか
  • 複数の用途に使いたいのか
  • 将来的に外部制御や市場活用まで考えるのか

を整理します。そして初めて、
必要な出力、容量、設置場所、制御方法、運用ルールなどを検討します。

設備仕様は、目的のあとに決まる。

これがESSを構成として考えるときの基本になります。

まとめ

ESSには、さまざまな役割があります。

太陽光発電の余剰をためる
電力需要のピークを抑える
昼から夜へ電気を移す
停電時の重要負荷を支える

さらに条件によっては、電力システム側の調整に活用する。
しかし、これらはすべて同じ条件で成り立つわけではありません。
目的が変われば、

必要な出力も
必要な容量も
充放電する時間も
残しておく電力量も

制御方法も変わります。

だからこそ、
「ESSを入れるか?」から検討を始めるのではなく、
「ESSに何をさせるのか?」から考える。

その役割が決まってから、エネルギー構成の中でESSをどこに置くのかを考えていきます。

次回#15では、この考え方をさらに広げて、
「24時間稼働する施設の電源構成は、なぜ複雑になるのか」
を見ていきます。

昼だけでなく夜も電気を使い続ける施設では、太陽光、ESS、系統電力などをどのように時間軸で組み合わせて考えるのかを整理します。

関連ページ

ESS・系統用蓄電池の基本的な仕組みや役割を紹介しています。

系統用蓄電池(ESS)とは >

ESSを導入・活用する際に考えておきたいメリットと注意点を整理しています。

ESSメリット・デメリット >

系統用蓄電池を中心に、ESSがどのような市場や仕組みの中で活用されるのかを紹介しています。

ESSの収益構造 >

出典・参考資料

[1]経済産業省「2024年度 定置用蓄電システム普及拡大検討会」関連資料
業務・産業用ではピークカット、自家消費最大化、非常用バックアップなどの活用が整理されています。

[2]経済産業省「2025年度第1回 定置用蓄電システム普及拡大検討会」
業務・産業用蓄電システムのユースケースやマルチユースについて検討されています。

[3]資源エネルギー庁「系統用蓄電池の現状」
再エネ導入拡大や安定供給に向けた調整力としての系統用蓄電池の役割が整理されています。


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