発電資源レシピ #02
主材料が届かない。ドイツは発電レシピをどう組み替えた?
―ロシア産ガスへの依存から、節約・LNG・再エネを組み合わせる構成へ

料理をつくろうとしたとき、いつも使っていた主材料が、突然届かなくなったらどうするでしょうか。
使用量を減らす。別の仕入れ先を探す。代わりの材料を使う。これからは同じことが起きないよう、献立そのものを見直す。
2022年以降のドイツが直面したエネルギー危機は、これに近い状況でした。
それまで大量に輸入していたロシア産天然ガスの供給が急速に縮小し、発電、暖房、産業を支えていたエネルギーの調達方法を大きく組み替える必要が生じたのです。
今回ドイツを取り上げるのは、輸入ガスへの依存、原子力発電の終了、石炭からの段階的な撤退、再生可能エネルギーの拡大が同時に進み、エネルギー安全保障による「レシピの変化」が特に分かりやすく表れている国だからです。
2025年のドイツの発電レシピ
ドイツ連邦ネットワーク庁によると、2025年に一般供給網へ送られた発電電力量は437.6TWhでした。
そのうち再生可能エネルギーは58.8%を占めています。単独の発電資源では風力が最も多く、太陽光発電も前年から大きく増加しました。[1]

2025年の主な発電電力量構成
| 発電資源 | 構成比 |
|---|---|
| 風力 | 約30.3% |
| 太陽光 | 約16.9% |
| バイオマス | 約8.2% |
| 水力・その他の再エネ | 約3.4% |
| 石炭 | 約21.8% |
| 天然ガス | 13.8% |
| その他の従来型電源 | 約5.5% |
※ドイツ連邦ネットワーク庁公表値をもとに構成比を算出。端数処理により合計が100%にならない場合があります。
現在のドイツは、再エネが料理皿の半分以上を占め、なかでも風力が最も大きな材料になっています。
しかし、石炭と天然ガスも合わせて3分の1を超えています。
「再エネが約6割」と聞くと、すでに発電レシピの変更が完了したようにも見えますが、実際には、天候、需要、電力価格、周辺国との電力取引に応じて、複数の材料を使い分けている途中です。
以前の材料棚には、ロシア産ガスが並んでいた
天然ガスは、発電だけに使われる資源ではありません。
家庭や建物の暖房、工場の熱源、化学産業の原料などにも利用されます。そのため、ガス供給の問題は、発電所だけではなく、暮らしや産業にも広く影響します。
2021年には、ドイツが輸入した天然ガスの52%をロシアが占めていました。
ところが2022年には、その割合が22%まで低下しました。ロシアからノルドストリーム1を通じて届いていたガスは段階的に減少し、同年9月には供給量がゼロになりました。[2]

発電レシピにたとえるなら、安価で大量に仕入れていた材料が、短期間で材料棚から消えたことになります。
しかも、ガスは別の材料に簡単に置き換えられるとは限りません。
工場の設備や暖房システム、発電所は、それぞれ使える燃料や運転条件が決まっています。スーパーで別の食材を買うように、翌日からすべて交換することはできないのです。
緊急レシピ1 まず、使う量を減らす
2022年にドイツが取った最初の対応の一つが、ガス消費量の削減でした。
同年のガス消費量は、直前4年間の平均に比べて14%減少しました。産業では15%、家庭と小規模事業者では12%減っています。[2]
これは単なる家庭の節約だけではありません。
企業による生産調整、別の燃料への切り替え、建物の暖房設定の見直し、比較的温暖だった気候など、複数の要因が重なった結果です。
材料が足りなければ、まず使う量を抑える。
緊急時には有効ですが、生産や快適性を長期的に削り続ける方法には限界があります。
緊急レシピ2 仕入れ先を増やす
次に行われたのが、ガスの調達先と輸送経路の分散です。
ロシアからの供給減少に対し、ノルウェー、オランダ、ベルギーなどからの輸入を増やしました。
また、パイプライン以外から天然ガスを受け入れられるよう、液化天然ガス、LNGの受入設備を急速に整備しました。ドイツ初の浮体式LNG受入基地は2022年12月に稼働し、2023年にはさらに複数の設備が加わりました。[3]
これは、新しい主材料に完全に切り替えたというより、仕入れ先を一つに集中させないための新しい入口を増やした対応です。
LNGは船で運べるため調達先を分散しやすい反面、国際市場の価格や輸送状況の影響を受けます。
依存先を変えるだけではなく、輸入資源そのものへの依存をどこまで減らすかが、次の課題になります。
緊急レシピ3 一時的に石炭を戻す
供給不足を避けるため、一部の石炭火力発電所も一時的に活用されました。
2022年は天然ガスによる発電量が前年から約14%減少する一方、褐炭火力は約5%、石炭火力は約14%増加しました。[3]
ここだけを見ると、ドイツが再エネ政策をやめて石炭へ戻ったようにも見えます。
しかし、短期的な緊急対応と長期的な方針は分けて考える必要があります。
材料が不足した冬を乗り切るために、保存していた材料を一時的に使うことと、今後もそれを主材料にすることは同じではありません。
ドイツは石炭火力から段階的に撤退する方針を維持しており、原子力発電についても、最後の3基が2023年4月15日に運転を終了しました。[4]
つまり、使える材料を増やしたというより、石炭と原子力を将来的な主材料から外しながら、供給を維持する難しい組み替えを進めています。
長期レシピ 国内で使える再エネを増やす

エネルギー危機によって重要性が再確認されたのが、国内で利用できる再生可能エネルギーです。
風や太陽そのものを海外から輸入する必要はありません。
設備や部材の供給網、土地、系統接続など別の課題はありますが、発電時に燃料を継続輸入しなくてよいことは、脱炭素だけでなくエネルギー安全保障の面でも意味を持ちます。
2025年には、ドイツの再エネ発電設備容量が約21GW増加し、合計で約210GWになりました。増加の中心は太陽光と風力です。[5]
ドイツの長期レシピは、単に「ロシア産ガスを別の国のガスへ交換する」ものではありません。
再エネを増やし、建物や交通を電化し、ガスを必要とする分野では低排出水素などを検討しながら、輸入化石燃料への依存そのものを小さくする方向です。[7]
太陽は増えた。でも、風が吹かない日もある
ここで、発電資源レシピの難しいところが見えてきます。
2025年は太陽光発電が大きく増えましたが、第1四半期は例外的に風が弱く、風力発電量が前年同期より29.2%減少しました。
その不足を補うように、天然ガスと石炭による発電量が増え、第1四半期だけを見ると従来型電源の割合が50.5%となりました。[6]
年間のレシピで再エネが約6割でも、毎日、毎時間、同じ割合で発電しているわけではありません。
晴れた昼には太陽光が余り、風の弱い冬の夜には別の電源が必要になることがあります。
料理にたとえるなら、年間メニューでは野菜が多くても、冷蔵庫に入ってくる量は日によって違います。
その差を埋めるために必要なのが、送電網、周辺国との電力融通、蓄電設備、需要調整、柔軟に運転できる発電設備です。
IEAも、再エネ比率が高まるドイツでは、送配電網、スマートメーター、大規模蓄電設備などの整備が重要になると指摘しています。[7]
レシピメモ 犬や猫の食卓にも影響?

エネルギー価格の変化は、電気料金だけに表れるわけではありません。
製品を加工する機械、加熱・乾燥工程、包装材の製造、倉庫、輸送など、さまざまな場所でエネルギーが使われています。
ドイツのペット用品業界は2022年、エネルギー、包装、物流などの大幅なコスト上昇を受け、ペットフードメーカーも価格を引き上げざるを得なかったと説明しています。[8]
すべての商品の中身が減ったという意味ではありません。
しかし、国のエネルギー材料が変わると、その影響が犬や猫のごはん売り場にまで届くことがあります。
発電資源レシピは、発電所の中だけで完結する話ではないのです。
ドイツのレシピは完成したのか
2025年のドイツでは、再生可能エネルギーが発電量の半分以上を占めています。
それでも、天然ガスと石炭は残り、電力輸入も行われています。再エネが余る時間帯と不足する時間帯があり、電力価格や送電網の制約もあります。[1][7]
現在のドイツは、完成した料理を提供しているというより、材料の仕入れ方法と調理設備を同時に交換しながら、毎日の食卓を止めないようにしている途中といえます。
短期的には、節約、LNG、石炭、電力輸入で供給を確保する。
長期的には、再エネ、送電網、蓄電、電化、水素などを増やし、輸入化石燃料への依存を小さくする。
この二つのレシピが、現在は同じ厨房で並行して動いています。
日本から見たドイツのレシピ
日本とドイツでは、地形、隣国との電力連系、産業構造、原子力政策、利用できる再エネ資源が異なります。
そのため、ドイツの方法をそのまま日本へ移すことはできません。
それでも、次の考え方は共通します。
- 特定の国や燃料へ依存しすぎない
- 輸入ルートと調達先を分散する
- 国内で利用できる発電資源を増やす
- 発電設備だけでなく、送電網や蓄電設備も整える
- 緊急時の対応と長期的な構成変更を分けて考える
- 発電量だけでなく、価格と安定供給も確認する
設備を増やすだけでは、発電レシピは完成しません。
どこから調達し、いつ発電し、どう届け、足りない時間を何で補うかまで含めて構成する必要があります。
次回は、ドイツ編の後半へ
今回見たのは、エネルギー危機を受けて、ドイツが国の発電レシピと燃料の調達方法をどう組み替えたかです。
しかし、材料やエネルギーの価格が変われば、その影響は発電所だけにとどまりません。工場、物流、店舗、家庭を通じて、商品の価格やつくり方、暖房、移動、日々の過ごし方にも広がっていきます。
次回の「発電資源レシピ #03」では、引き続きドイツを題材に エネルギー危機が仕事や暮らしへどのように届いたのかを身近な事例から読み解きます。
ドイツの発電資源レシピを扱うのは次回までとし、#04以降は別の国や地域へ視点を移します。
参照データについて
本記事の発電構成は、主にドイツ連邦ネットワーク庁が公表した、2025年に一般供給網へ送られた純発電電力量をもとにしています。
産業施設内の自家発電や家庭などで発電してその場で消費された一部の太陽光発電は含まれないため、ドイツ国内のすべての発電量を示す統計とは集計範囲が異なります。
また、発電電力量、発電設備容量、天然ガスの輸入構成、一次エネルギー構成はそれぞれ異なる指標です。本記事では、内容に応じて区別して使用しています。
出典・参考資料
[1]ドイツ連邦ネットワーク庁「2025年電力市場データ」2026年1月 参照2026年8月
[2]ドイツ連邦ネットワーク庁「2022年ガス供給実績」2023年1月 参照2026年8月
[3]ドイツ連邦ネットワーク庁・ドイツ連邦カルテル庁「モニタリング報告書2023」2023年11月 参照2026年8月
[4]ドイツ連邦政府「手頃でクリーンなエネルギー」参照2026年8月
[5]ドイツ連邦ネットワーク庁「2025年の再生可能エネルギー導入状況」2026年1月 参照2026年8月
[6]ドイツ連邦統計局「2025年第1四半期の発電電力量」2025年6月 参照2026年8月
[7]国際エネルギー機関「Germany 2025」2025年4月、参照2026年8月
[8]ドイツ・ペット用品業界団体「2022年のドイツのペット市場」2023年 参照2026年8月
データの見方について
本シリーズでは、原則として対象年に実際に発電された電力量の構成比を使用しています。設備容量や電力契約上の電源構成とは異なります。
国や地域によって、集計期間、電源分類、推計値、自家消費、輸入電力などの扱いが異なる場合があります。構成比だけで発電方式や国・地域の優劣を評価するものではありません。また、端数処理により合計が100%にならない場合があります。
掲載情報は、記事作成時点または出典公表時点のものです。
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