蓄電池部材ランキング #03

負極材の原料「天然黒鉛」は、どこから来ているのか?
HS2504.10で見る輸入相手国ランキング

蓄電池は、完成したセルや設備だけで成り立っているわけではありません。
正極材、負極材、電解液、セパレーター、集電体など、さまざまな材料や部分品が組み合わされて、一つの蓄電池になります。

「蓄電池部材ランキング #02」では、貿易統計上の「蓄電池の部分品」に当たるHS8507.90を取り上げました。
ただし、この品目だけでは、蓄電池を構成するすべての材料を確認できません。

そこで今回は、蓄電池の材料をさらに上流へたどり、リチウムイオン電池の負極材と関係の深い天然黒鉛を見ていきます。

今回見るのは「HS2504.10」

財務省の輸入統計品目表では、天然黒鉛はHS25.04に分類されています。[1]
そのうち、今回取り上げるHS2504.10は、次の品目を対象としています。

天然黒鉛のうち、粉状又はフレーク状のもの

日本の統計番号では、HS2504.10-000です。統計上の数量単位には、重量を表すMTが使用されています。
ここで重要なのは、この品目が蓄電池用天然黒鉛だけを集計した分類ではないという点です。

HS2504.10には、電池以外の用途に使われる天然黒鉛も含まれる可能性があります。また、石油・石炭系の原料などから製造される人造黒鉛は、天然黒鉛とは別の品目です。[2]
そのため、この記事のランキングは「日本が輸入した蓄電池用負極材の製造国ランキング」ではなく、あくまで粉状・フレーク状天然黒鉛の輸入相手国ランキングとして見る必要があります。

2023年の輸入額は約104億円

2023年、日本は15か国からHS2504.10に分類される天然黒鉛を輸入しました。
輸入額は約104億円で、そのうち中国からの輸入が89.5%を占めています。2位のマダガスカルは2.9%で、中国とマダガスカルの2か国を合わせると、輸入額全体の9割を超えます。

2023年 天然黒鉛の輸入相手国ランキング

順位輸入相手国輸入額シェア輸入数量シェア
1中国89.5%88.2%
2マダガスカル2.9%5.6%
3米国2.2%0.8%
4スリランカ2.1%2.2%
5ブラジル1.4%1.1%
―その他1.9%2.1%

※輸入額・輸入数量のシェアは、世界銀行WITSに掲載された2023年のHS250410輸入統計から算出し、小数第2位を四捨五入しています。[3]

輸入額と輸入数量の両方で中国が約9割

2023年の統計では、中国は輸入額で89.5%、輸入数量でも88.2%を占めています。
輸入額だけでなく、重量で見ても中国の割合が高いことから、日本の粉状・フレーク状天然黒鉛の輸入構造は、中国の比重が非常に大きいことが分かります。

一方、2位のマダガスカルは、輸入額シェアが2.9%であるのに対し、輸入数量シェアは5.6%です。
米国は輸入額シェアが2.2%である一方、数量シェアは0.8%にとどまります。
同じ「天然黒鉛」という統計品目であっても、品質、形状、純度、契約条件、加工段階などによって、重量当たりの輸入価格には違いが生じます。
したがって、輸入額の大きさだけで供給量や用途を判断せず、金額と数量を分けて確認することが重要です。

天然黒鉛は、そのまま負極材になるわけではない

天然黒鉛は、リチウムイオン電池の負極材に使われる重要な原料の一つです。
ただし、鉱山から採掘された天然黒鉛が、そのまま電池セルへ組み込まれるわけではありません。
一般に、電池向けの負極材として使用するためには、選鉱、精製、球状化、高純度化、表面処理など、複数の加工工程が必要になります。
JOGMECも 天然黒鉛を球状化・高純度化した中間物について、リチウムイオン電池の負極材に欠かせない原材料と説明しています。[4]
つまり、サプライチェーンを確認する際には、次の段階を分けて見る必要があります。

天然黒鉛の採掘
→ 選鉱・精製
→ 球状化・高純度化
→ 負極活物質の製造
→ 電極・セルの製造
→ 蓄電池システムへの組み込み

天然黒鉛から蓄電池セルまでの流れ

輸入統計で確認できるのは、この長い流れの一部分です。

天然黒鉛と人造黒鉛は別に考える

黒鉛系の負極材には、大きく分けて天然黒鉛と人造黒鉛があります。
天然黒鉛は鉱山から採掘される天然資源です。
一方、人造黒鉛は、石油・石炭コークスなどの炭素原料を高温で処理し、人工的に黒鉛化して製造されます。
電池によっては、天然黒鉛、人造黒鉛、または両者を組み合わせた負極材が使用されます。経済産業省の調査 でも、黒鉛系負極材は天然黒鉛と人造黒鉛に分けて整理されています。[4]

天然黒鉛と人造黒鉛の違い

今回のHS2504.10は、名称のとおり天然黒鉛だけを対象としています。
そのため、今回のランキングだけを見て、日本で使用される黒鉛系負極材全体の輸入構造や製造国構成を判断することはできません。

この統計から分かること

HS2504.10の輸入統計からは、主に次のことが分かります。

  • 日本が粉状・フレーク状天然黒鉛をどの国から輸入しているか
  • 国別の輸入額と輸入数量
  • 輸入相手国の集中度
  • 年ごとの輸入額・輸入数量の変化
  • 金額シェアと数量シェアの違い

2023年のデータからは、輸入額・輸入数量の両方で中国の割合が約9割に達していることが確認できます。

この統計だけでは分からないこと

一方、HS2504.10の統計だけでは、次の内容までは判断できません。

  • 輸入された天然黒鉛のうち、蓄電池に使用された割合
  • 車載用、定置用、民生用などの用途別内訳
  • 負極材として使用できる品質やグレード
  • 球状化、高純度化、表面処理を行った国や事業者
  • 人造黒鉛を含めた黒鉛系負極材全体の供給構造
  • 最終的にどの電池メーカーや蓄電池設備で使用されたか

「中国からの輸入が89.5%」という数字は重要ですが、それをそのまま「日本の蓄電池負極材の89.5%が中国製」と読み替えることはできません。
統計品目の範囲を確認しながら、数字が示している範囲と、示していない範囲を分ける必要があります。

蓄電池の供給構造を見る視点

系統用蓄電池や産業用蓄電池を検討する際、設備の外観や容量だけを見ても サプライチェーンの全体像は分かりません。
確認したいのは、セルや部材の製造国だけではなく、次のような項目です。

  • セルの製造事業者と製造拠点
  • 負極材・正極材などの主要材料
  • 原料の調達先と加工拠点
  • 複数地域からの調達可能性
  • 保守部品や交換品の供給体制
  • メーカーや事業者による品質管理
  • 長期運用を支える保守・施工体制

経済産業省が2026年6月に改訂した「蓄電池・電源産業戦略」でも、上流資源の確保とサプライチェーンの強靱化が政策の柱に位置付けられています。[5]
蓄電池設備を考えるときは、特定の国の割合だけで良し悪しを決めるのではなく、原料、材料、セル、設備、施工、保守までを一つの供給構造として確認することが大切です。

まとめ

2023年、日本が輸入した粉状・フレーク状天然黒鉛では、中国が輸入額の89.5%、輸入数量の88.2%を占めました。
天然黒鉛は、リチウムイオン電池の負極材と関係の深い原料です。
しかし、HS2504.10は蓄電池専用の統計品目ではなく、人造黒鉛も含まれていません。

今回のデータから分かるのは、あくまで日本の天然黒鉛輸入における相手国構成です。
蓄電池のサプライチェーンを理解するためには、天然黒鉛の輸入先だけでなく、精製・加工、負極材製造、セル製造、設備の組み立て、施工・保守まで、複数の段階をつなげて見ていく必要があります。

出典・参考資料

[1]財務省「輸入統計品目表 第25類」参照2026年8月
[2]GD Freak!「天然黒鉛(粉状又はフレーク状の物)の輸入動向 HS250410」参照2026年8月
[3]World Integrated Trade Solution(WITS)「Japan Natural graphite in powder or in flakes imports by country, 2023」参照2026年8月
[4]JOGMEC「負極材中間物製造事業への参画に向けたLOI」参照2026年8月
[5]経済産業省「蓄電池・電源産業戦略」参照2026年8月

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データの見方について

本シリーズでは、貿易統計上の品目分類をもとに輸入相手国や構成比を整理したものです。統計上の品目と、蓄電池に実際に使用される材料・部品の範囲が完全に一致するとは限りません。
掲載データは、個別製品の原産国、製造事業者、品質、性能、調達先または最終用途を示すものではありません。


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