蓄電池部材ランキング #04

負極材のもう一つの主役「人造黒鉛」は、どこから来ているのか?
HS3801.10で見る輸入相手国ランキング

天然黒鉛の次は「人造黒鉛」を見てみる

蓄電池の中には、さまざまな材料があります。

前回の「蓄電池部材ランキング #03」では、リチウムイオン電池の負極材と関係の深い天然黒鉛を取り上げました。
では、黒鉛系の負極材は、すべて鉱山から採掘された天然黒鉛なのでしょうか。
実際には、もう一つ重要な材料があります。

それが、人造黒鉛です。
人造黒鉛は、石油・石炭由来のコークスなどを原料として、高温で焼成・黒鉛化して製造されます。経済産業省の蓄電池製造工程資料でも、負極材について「天然黒鉛」と「人造黒鉛」が分けて示され、人造黒鉛はコークスから焼成して製造するものとして整理されています。[1]

今回は、日本がこの人造黒鉛をどの国から輸入しているのかを見ていきます。

今回見るのは「HS3801.10」

財務省の輸入統計品目表では、人造黒鉛は第38類のHS3801.10に分類されています。
日本の統計番号は**3801.10-000「人造黒鉛」**で、数量単位はKGです。[2]

ここで、今回も重要な注意点があります。

HS3801.10は「蓄電池用人造黒鉛」だけを集計した統計ではありません。
人造黒鉛には、リチウムイオン電池の負極材以外にも、電極材、ヒーター、半導体製造関連など幅広い用途があります。[3]
したがって、以下のランキングは、
「日本の蓄電池用人造黒鉛の調達国ランキング」
ではなく、
「HS3801.10に分類される人造黒鉛全体の輸入相手国ランキング」
として見る必要があります。

2023年 日本は約6.7万トンの人造黒鉛を輸入

WITSに掲載された貿易統計によると、2023年の日本の人造黒鉛輸入は、輸入額で約1億3,084万ドル、輸入数量で約6万6,573トンでした。[4]
財務省の貿易統計を整理したGD Freak!では、2023年の輸入額は約184億円で、前年比27.8%増となっています。[5]

2023年 人造黒鉛の輸入相手国ランキング

順位輸入相手国輸入額シェア輸入数量シェア
1中国64.0%89.0%
2ポーランド11.9%3.2%
3米国6.9%1.8%
4韓国6.3%1.2%
5スイス4.2%1.5%

※WITS掲載の2023年HS380110日本輸入データから算出。構成比は小数第2位を四捨五入。[4]

中国は「金額64%」なのに「数量89%」

今回のデータで目につくのが、輸入額と輸入数量の割合の違いです。
中国からの輸入は、輸入額では全体の64.0%ですが、輸入数量では89.0%を占めます。

一方、ポーランドは輸入額では11.9%ですが、数量では3.2%です。
米国も、輸入額6.9%に対して数量は1.8%となっています。[4]
つまり、「どこから多く輸入しているか」は、金額で見るのか、重量で見るのかによって印象が変わります。
ただし、この差から、
「中国品は安い」
「欧米品は高品質」
などと単純に判断することはできません。
HS3801.10にはさまざまな用途・品質・加工状態の人造黒鉛が含まれるため、製品グレード、用途、契約条件などの違いが輸入単価に影響している可能性があります。
金額と数量の差は確認できても、その理由まではこの統計だけでは分からない。
ここも、貿易統計を見るときの重要なポイントです。

#03の天然黒鉛とは、少し違った構造が見える

前回取り上げた2023年の天然黒鉛では、中国は輸入額の89.5%、輸入数量の88.2%を占めていました。
つまり天然黒鉛では、金額と数量の両方で中国が約9割を占めていました。
一方、人造黒鉛では、

  • 輸入数量:中国 89.0%
  • 輸入額:中国 64.0%

となっています。

同じ「黒鉛」であっても、統計から見える輸入構造は同じではありません。
ここで重要なのは、どちらかを単純に「依存度が高い・低い」と評価することではなく、天然黒鉛と人造黒鉛を分けて見る必要があるということです。[4]

天然黒鉛と人造黒鉛は、出発点が違う

天然黒鉛は、地下資源として採掘された黒鉛を精製・加工して使用します。
一方、人造黒鉛は、コークスなどの炭素原料を加工し、焼成や高温での黒鉛化工程を経て製造されます。[1]
簡略化すると、

天然黒鉛
鉱山 → 選鉱・精製 → 加工 → 負極材

人造黒鉛
炭素原料 → 焼成 → 黒鉛化 → 加工 → 負極材

という違いがあります。
人造黒鉛の製造では高温処理が必要であり、製造工程に必要なエネルギーやCO₂排出も検討課題になります。経済産業省関連の調査でも、人造黒鉛の負極材製造では高温・長時間の加熱処理が必要で、多くの電力を使用する点が指摘されています。[6]

「天然か、人造か」だけでも決まらない

ここまで見ると、「天然黒鉛と人造黒鉛のどちらがよいのか」という疑問が出てきます。
しかし、蓄電池では、それほど単純ではありません。
求められる電池性能、寿命、充放電特性、製造方法、コストなどによって、使用する負極材の構成は変わります。
また、黒鉛以外の負極材料を採用する電池も存在します。たとえば、チタン酸リチウム(LTO)を負極材に使用するリチウムイオン電池も実用化されています。[7]
したがって、
「リチウムイオン電池=必ずこの種類の黒鉛」
というわけではありません。

この統計から分かること

HS3801.10の輸入統計からは、主に次のことが確認できます。

  • 日本が人造黒鉛をどの国から輸入しているか
  • 国別の輸入額
  • 国別の輸入数量
  • 輸入相手国の集中度
  • 金額シェアと数量シェアの違い
  • 年ごとの輸入構造の変化

2023年については、特に数量ベースでは中国からの輸入割合が非常に大きいことが確認できます。[4]

この統計だけでは分からないこと

一方で、HS3801.10だけでは次の内容は判断できません。

  • 輸入した人造黒鉛のうち蓄電池向けが何%なのか
  • 車載用・定置用・民生用などの用途
  • 電池用としての品質やグレード
  • 最終的な負極材メーカー
  • どのセルメーカーで使用されたか
  • 系統用蓄電池に使用された割合
  • 輸入単価の違いが生じた具体的な理由

したがって、
「中国から輸入数量の89.0%」=「日本の蓄電池用人造黒鉛の89.0%が中国製」
とは言えません。統計が示している範囲を超えて解釈しないことが重要です。

黒鉛から見えてくる、蓄電池の長いサプライチェーン

#03と#04で天然黒鉛と人造黒鉛を見てきました。

ここから分かるのは、蓄電池の供給構造は、完成したセルやESSだけを見ても全体像が分からないということです。
原料があり、材料加工があり、負極材が作られ、電極、セル、モジュール、蓄電池設備へとつながっていきます。
さらに、その途中には複数の国や企業が関わる場合があります。
系統用蓄電池を長期運用する立場から見ると、単に「どこの国から来た設備か」だけではなく、

  • 主要部材の供給体制
  • メーカーの品質管理
  • 代替調達の可能性
  • 保守部品の供給
  • 施工・保守体制
  • 長期的な事業継続性

まで含めて考える必要があります。データは、その構造を理解するための入口です。

まとめ

2023年、日本が輸入したHS3801.10「人造黒鉛」では、中国が輸入額の64.0%、輸入数量の89.0%を占めました。[4]
前回の天然黒鉛とは異なり、人造黒鉛では金額と数量のシェアに大きな差が見られます。
ただし、HS3801.10には蓄電池以外の用途も含まれているため、この数字をそのまま蓄電池負極材の調達構造と読み替えることはできません。

天然黒鉛と人造黒鉛

同じ「黒鉛」という言葉の中にも、異なる原料、製造工程、用途、供給構造があります。
蓄電池のサプライチェーンを見るときには、完成品だけではなく、一段ずつ材料側へさかのぼって見ることが重要です。

出典・参考資料

[1]経済産業省「蓄電池産業戦略の関連施策の進捗状況及び当面の進め方について」2023年4月
[2]財務省「輸入統計品目表 第38類」2026年 参照2026年8月
[3]経済産業省「炭素事業における地球温暖化対策の取組」
[4]World Integrated Trade Solution(WITS)「Japan Artificial graphite imports by country, 2023」参照2026年8月
[5]GD Freak!「人造黒鉛の輸入動向 HS380110」2023年データ 参照2026年8月
[6]経済産業省関連調査「令和4年度市場競争環境評価調査」
[7]NEDO「常識を覆す発想で革新的なリチウムイオン電池を開発」

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データの見方について

本シリーズでは、貿易統計上の品目分類をもとに輸入相手国や構成比を整理したものです。統計上の品目と、蓄電池に実際に使用される材料・部品の範囲が完全に一致するとは限りません。
掲載データは、個別製品の原産国、製造事業者、品質、性能、調達先または最終用途を示すものではありません。


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